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アメデオ・モディリアーニの絵画は本物ならいくら?査定基準
首が長く、目がアーモンドの形をした女性の肖像。額の隅に「Modigliani」とある。これは価値のある絵なのか。結論から言えば、家庭にある「モディリアーニ」の大半は、没後に作られた印刷複製です。モディリアーニは生前に版画をほとんど残しておらず、ピカソやマチスのように「オリジナル版画」という中間の市場が存在しません。つまり、手元の品は油彩か素描の真作か、そうでなければ複製か、という二択に近い構造になっています。そして油彩・素描の真作は美術館級であり、しかも贋作が極めて多い画家として知られています。この記事では、モディリアーニという画家の位置づけを押さえたうえで、市場の「モディリアーニ」がどう分かれるのか、贋作の多さが何を意味するのかを整理するのが前半です。そのうえで、複製はどう扱われるのか、持ち込む前に何を確認しておくべきかを順に見ていく内容です。
モディリアーニという画家
なぜこの画家の名前がこれほど強く残るのか。短い生涯と作風の背景を知っておきます。
リヴォルノからパリへ
アメデオ・モディリアーニは1884年、イタリアのリヴォルノに生まれました。幼い頃から病弱で、絵を学びながら各地で療養を重ねたのち、1900年代にパリへ出ます。当時のパリはピカソやブラックがキュビスムを生み出していた時代であり、モディリアーニはその渦中にいながら、独自の道を歩みました。モンパルナスの芸術家たちと交わり、貧困と病気のなかで制作を続けた生涯は、伝説的に語られています。1920年、35歳でパリに没しました。若くして亡くなったこと、その直後に伴侶が後を追ったことは、モディリアーニの名前に悲劇の物語を添え、後世の関心を高める要因になりました。
彫刻から絵画へ
モディリアーニはパリで、当初は彫刻に打ち込みました。アフリカ彫刻や古代の彫像に影響を受けた、細長く単純化された石の頭部像がその成果です。しかし石を彫る作業は病弱な身体に負担が大きく、やがて絵画に軸足を移します。彫刻で追求した単純化された形は、絵画にもそのまま持ち込まれました。細長い首と顔、アーモンド形の目、ときに瞳を描かない表情は、彫刻の経験から生まれた様式だと考えられています。この様式は一目でモディリアーニと分かるほど特徴的で、それが人気の理由であると同時に、模倣が容易であるという問題も生んでいます。
肖像画と裸婦
モディリアーニの絵画のほとんどは、人物です。友人の芸術家、画商、伴侶、モデルを描いた肖像画と、横たわる裸婦像が主な題材でした。風景画は数点しか残っていないとされます。肖像画には、モデルの個性が単純化された形のなかに残っており、それがこの画家の絵を装飾的な様式画と分けています。裸婦像は、1917年の個展が警察によって中止されたという逸話で知られ、後年の市場では最も高額で取引される作品群になりました。ただし、こうした作品はいずれも美術館や著名なコレクションに収まっており、家庭から新たに出てくる可能性はごく小さいものです。
生前の無名と没後の高騰
モディリアーニは生前、ほとんど評価されませんでした。作品が売れず、画商の支援でかろうじて制作を続けていたと伝わります。評価が急上昇したのは没後です。悲劇的な生涯と独特の様式が注目を集め、1920年代以降、作品の価格は急速に高まりました。この「生前は無名、没後に高騰」という構図は、贋作が生まれやすい条件でもあります。生前の記録が乏しく、作品の所在が十分に把握されないまま需要だけが膨らんだ結果、真作を装った品が数多く作られました。モディリアーニの真贋問題が今日まで続いている背景には、この事情があります。
市場の「モディリアーニ」はどう分かれるか
モディリアーニの名前が付いた品は、他の画家とは違う分かれ方をします。表で示したうえで、順に見ていきます。
| 種類 | 何か | 市場での扱い |
|---|---|---|
| 油彩 | モディリアーニ自身が描いた一点物 | 美術館級。所在はほぼ把握されている |
| 素描 | 鉛筆やインクによる人物素描 | 真作なら高評価。ただし贋作が非常に多い |
| 没後の複製版画 | 油彩を元に後年作られた印刷・版画 | 複製の枠。オリジナル版画ではない |
| ポスター・美術複製 | 展覧会ポスター・印刷物 | 複製の枠。原則として別市場 |
生前の版画がほぼ存在しない
ピカソやマチスには、画家自身が制作した「オリジナル版画」という確立した市場があります。モディリアーニにはそれがありません。生前に版画をほとんど制作していないためです。したがって、「モディリアーニの版画」と呼ばれる品は、原則として没後に油彩や素描を元にして作られた複製版画であり、画家自身が関与したものではありません。これは持ち主にとって重要な事実です。手元の品に「リトグラフ」と記され、番号や署名風の印刷があっても、それはオリジナル版画ではなく、複製の枠で見られます。版画の目録と照合して真作かどうかを確かめる、という他の画家で通用する道筋が、モディリアーニでは使えないのです。
油彩と素描だけが真作の対象
モディリアーニで「真作」が問われるのは、油彩と素描だけです。油彩は数が限られ、所在の多くが把握されていますから、家庭から未知の油彩が出る可能性はごく小さいと言えます。素描は油彩より数が多く、モディリアーニはカフェで知人を描いた素描を配っていたと伝わるため、理論上は家庭から出る余地があります。しかし、素描は油彩以上に贋作が多い領域です。単純化された線は模倣しやすく、鉛筆や紙の時代を合わせた贋作も存在します。素描の真贋判定は専門家のなかでも意見が分かれることがあり、鑑定の場では来歴の記録が決定的な意味を持ちます。
贋作の多さが意味すること
モディリアーニは、贋作の多い画家として知られています。1984年には、リヴォルノで学生らが作った偽の彫刻が運河から見つかり、専門家がそれを真作と認めかけた騒動がありました。この出来事は、真贋判定の難しさを象徴する例としてよく引かれます。絵画についても、真贋をめぐる争いは繰り返されてきました。持ち主にとってこれが意味するのは、「本物かもしれない」という期待を根拠に動くことの危うさです。専門家は、様式が似ているというだけでは判断せず、来歴の記録、紙や絵の具の科学的な分析、既知の作品との照合を重ねて慎重に判断します。持ち主の側は、その判断に必要な資料を揃えることに集中するのが賢明です。
複製の枠で見られる品
家庭にある「モディリアーニ」の大半は、複製です。展覧会のポスター、美術出版社の複製画、百貨店で額装して売られた印刷物。これらは当時から複製として販売されたもので、偽物ではありません。複製の評価は、有名な展覧会のポスターであるか、印刷の質が高いか、額装や状態がよいかで決まり、オリジナル作品とは別の枠で見られます。持ち主が知っておくべきなのは、「複製と分かった時点で査定の見方が切り替わる」ということです。複製の市場は限られますが、処分するよりは確かめたほうがよい品も含まれます。落胆する前に、複製としてどう見られるかを聞いてください。
「モディリアーニ風」の作品という第三の道
市場には、モディリアーニの様式を模して他の画家が描いた作品も存在します。首の長い人物像は模倣しやすく、昭和の時代に日本の画家がその様式で描いた油彩や、無名の画家が飾り絵として制作したものが、家庭に残っていることも珍しくないでしょう。こうした品は、モディリアーニの真作でも複製でもなく、「その画家の作品」として見られます。署名が別の名前であれば、その画家の評価があるかどうかが問われますし、無署名であれば装飾画としての扱いになります。持ち主が「モディリアーニに似ている」と感じる絵が、実は日本の画家の手によるものだった、という例は珍しくありません。その場合も、絵として評価される道は残っていますので、様式だけで判断せず、署名と裏面を確かめて見せてください。
額縁と付属品の価値
古い西洋の額縁は、それ自体が工芸品として評価されることがあります。金箔の装飾額、手彫りの木製額、時代のある額は、中の絵が複製であっても、額だけで市場があります。額の裏に貼られた画廊のラベル、百貨店の値札、輸入時の書類なども、複製であれ肉筆であれ、いつどこで購入されたかを示す資料です。絵の価値が期待と違ったときでも、額と付属品を含めて見てもらえば、思わぬ評価が付くこともあります。額から絵を外して別々に売ろうとせず、一式で持ち込んでください。額の傷や金箔の剥がれも、自分で直さないのが原則です。
持ち込む前に確認しておくこと
真贋の判断は専門家に委ねるとして、持ち主が整えておける情報はあります。モディリアーニの場合、来歴がすべてに優先します。
来歴の記録を探す
油彩や素描の真作を主張するには、来歴の連続性が不可欠です。誰が最初に入手し、どの画商や競売を経て、いつ日本に来て、誰が買ったのか。その各段階に、領収書、画廊の証明書、競売の記録、展覧会の出品記録といった資料があれば、鑑定の道が開きます。逆に、来歴が「祖父がヨーロッパで買ったと聞いている」だけでは、判断の材料になりません。家中の書類を探し、古い封筒や手紙、写真のなかに手がかりがないかを確かめてください。額の裏に貼られたラベルや書き込みも、来歴の一部です。剥がさず、写真に撮って残します。
表面と裏面を観察する
肉筆かどうかの手がかりとして、明るい光を斜めから当てて表面を見てください。油彩であれば絵の具の盛り上がりや筆の跡が立体的に見え、印刷であれば表面は均一です。素描であれば、鉛筆や木炭の粒子が紙の繊維に乗っている様子と、印刷の均一な線との違いがあります。ただし、これらは持ち主が「複製かもしれない」と見当をつけるための観察であって、真作と判断する根拠にはなりません。裏面には、キャンバスの張り方、木枠の古さ、紙の質、ラベルや印など、専門家が時代を読む情報があります。額を分解せず、見える範囲で写真を撮っておいてください。
手を加えない
表面の汚れを拭く、ニスを塗り直す、たるんだキャンバスを張り直す、紙の折れを伸ばす。いずれも避けてください。油彩の汚れやニスの黄変は、専門家が時代を読む手がかりであり、また素人の洗浄は絵の具を傷めます。紙の作品は湿気で波打ち、酸性化で黄変しますが、これも自分で直せるものではありません。額から外す作業も、紙が台紙に貼り付いている場合には破損の原因になります。見つけたときの状態のまま、直射日光と湿気を避けて保管し、査定に持ち込むのが正解です。同じ分野の話として、だるま3マガジンの絵画買取の基礎知識|査定相場・高く売るコツ・失敗しない業者選びを解説もどうぞ。
鑑定の道筋と費用
油彩や素描の可能性がある場合、査定士は鑑定の手続きを案内します。モディリアーニの鑑定は、国内外の専門家や機関が関わり、科学的な分析を伴うこともあります。費用と時間がかかり、しかも結果が持ち主の期待と違う可能性は高い、ということを最初に理解しておいてください。査定士は、来歴の資料と作品の観察から、鑑定に進む価値があるかどうかを持ち主と相談します。資料が乏しく、様式だけが似ている品については、鑑定に進まないという判断が現実的なことも多いものです。同じ領域の記事として、だるま3マガジンの油絵を売りたい方へ|買取相場・査定基準・高く売るためのポイントを徹底解説もご覧ください。
相談先の選び方
モディリアーニのような真贋問題の多い西洋絵画は、その事情に通じた専門店で見てもらう必要があります。西洋絵画の取扱実績があり、鑑定機関との連携や、過去の真贋事例を説明できる店を選んでください。「モディリアーニですね、鑑定に出しましょう」とすぐに言う店より、「まず来歴の資料を見せてください」と言う店のほうが、この画家については誠実です。複数の専門店に相談し、来歴の扱い方を比べれば、店の姿勢が見えてきます。アンリ・マチスの絵画・版画はいくらで売れる?査定基準を解説もあわせてご覧ください。
あなたの場合はこう動く
実家の壁に、首の長い女性の肖像が掛かっていた。裏を見ると画家の名前と、どこかの印刷所らしい表記がある。本物かどうか分からず、捨てるにも捨てられない。そういう状況にいるなら、動き方はこうです。
まず、「本物かもしれない」という期待をいったん脇に置きます。モディリアーニの真作が家庭から出る可能性は、他の画家以上に小さく、贋作は他の画家以上に多いからです。次に、額の裏のラベルや書き込みを写真に撮り、購入した人と時期と場所について家族に聞き、家の書類を探します。作品には手を加えません。
そのうえで、西洋絵画を専門に扱う店に、「複製の可能性が高いと思うが、確かめたい」と伝えて持ち込みます。複製であれば、複製としての扱いを聞き、処分するか残すかを決めればよいことです。万一、来歴の資料が揃い、素描や油彩の可能性が残るなら、そこから鑑定の相談が始まります。
期待を根拠に動かず、資料を根拠に動く。モディリアーニの名前が付いた品では、それが唯一の正しい順序です。